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 賀川春子「三畳敷の食堂」「神は活く」
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  武内勝所蔵の「雲の柱」の中から、中村竹次郎「武内勝先生を語る」(43回)と武内の賀川春子宛書簡「小さき人生の完成者」(44回)を取り出してみた。ここでさらに「雲の柱」に残された賀川春子の短い文章ふたつ「三畳敷の食堂」と「神は活く」を紹介しておきたい。いずれも母親・春子の眼と心の伝わる名品である。



 三畳敷の食堂  賀川春子

 私達は住居が時々変り、神戸から東京、次に西宮市外へ移って、再び東京に戻り、今の上北澤に住むやうのなった。
 考えてみると、その何れもの家が、三畳敷で食事をしてゐたことである。
 先づ最初の家は小説「太陽を射るもの」に出て来るやうに、主人が鋸を持って床を張り、三畳敷の椅子式の食堂が出来た。これは主人が米国に学んで帰った直後のことであった。
 その頃大宅壮一氏は、高等学校の優秀な学生であったが、甘酒造りもまた優秀で私達を驚かせた。黒い毛朱子の風呂敷に糀を包んで来ては、実にうまい甘酒を造って貰って食べたのも、その食堂であった。
 子供は二歳の長男一人あったが主人の助手が幾人も居たので、相当人は多かったが、その狭い食堂で済ませてゐた。
 三年過ぎて関西に帰り、西宮市外に借家した。これが又三畳敷を食堂にするやうな都合になった。親友杉山元治郎氏も移って来られ隣合せに住んで農民福音学校もそこに開校した。
 長男は学齢に達したので、瓦木村の小学校に通学した。
 昭和四年であった。主人が東京に出るので家族は再度上京し、懐しい武蔵野の森に引きつけられ、上北澤の今の家に移って来た。
 もう十年にもなって、長男が十七、長女が十四、次女が十歳になった。
 子供達の簡易生活の訓練をする意味で、幼稚園の二階に住み、階下の一間しかない畳の部屋を食堂にした。それが又三畳敷である。
 発育盛りの子供達は、肩幅も広く背も高くなり三畳敷は一杯である。
 狭い部屋で、味噌汁を食べて満足出来る子供なら、いつ親に別れることがあっても、社会生活の荒い波も乗り切れるからと、病身の主人は考へてゐる。
 我家の非常時は昔からで、今に始まったのではない。主人は数十年来散髪は下手な私ので辛抱してゐるので、子供達も私にさせてゐる。
 長男は自転車で中学校に通学し、長女は畑道を歩いて女学校の一年に学んでいる。
 かうして長い間送って来た簡素の生活は、苦しいものでは決してない。このうち無駄のない喜びを味ひ、かつ感謝をさへ持てるものである。
(「雲の柱」第17巻第11号:昭和13年11月号)


 神は活く  賀川春子

 星は移り、年は変って、神戸市葺合に救済事業を開始して早や三十年になり、之を回顧して、ひたすら神の恵を感謝する。
 貧民窟の病人の多いことは実に驚く計りで、正確に診察すると殆んどが病者である位、それが重いのは、脳梅毒で頭の一部が腐れて落ちて居る者や、結核で一家全滅の家、癩病で顔がくづれ、鼻の無い梅毒患者、癲癇で小路に倒れる若者、髪振り乱して叫ぶ女と云うやうな、右を見ても左を見ても悲愴極まる状態であった。
 その当時、私達の住居、それはその中の借家で、茲で篤志な医者を迎へて、無料診療を始めてこの救済に当てた。之が現今では診療所の建物を持ち、四人の献身的な医師を与へられて仕事を続けて居る。これも感謝である。
 古木で建てた、三畳敷長屋は雨がもる、軒が歪む、人が住むには余りに粗末に過ぎた。今は市が建てたアパートに或者は移り、住宅問題の一部はこれで解決された。
 救霊運動は最も力を注いで今日まで継続してゐる。
 免囚保護事業も、幼稚園も加わった。この隣保事業は大阪にも伸び、更に東京にも仕事は殖へた。
その間理解ある同志の援助と、神の恩寵を沁々と感じ、神活き給うの念を深くされて居る。私共は絶えずエリヤの如く、鳥に食物を運ばれ、尽きざる油壷を天より賜ひて、三十年の救済事業が続けられて居る。
 (「雲の柱」第18巻第12号:昭和14年12月号)



 予定より少々刊行が遅れているといわれる「賀川ハル資料集」(緑陰書房)は既に店頭にあるかも知れないが、そこにはこれらの小品ももちろん収められているはずである。
 写真は「賀川豊彦写真集」にあるもので、武蔵野の森の「食堂」であろうか。(2009年8月27日記す。鳥飼慶陽)




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