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 賀川の証言:キリストと「涙」と私の問答
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 前回(41回)戦時下、東京における空爆の下で、神戸の武内勝に宛てた賀川の見舞い状を取り上げた。
 ここではその「追記」として、賀川の傑作のひとつ「小説キリスト」(昭和13年、改造社)を原作に、山路英世が戦後昭和22(1947)年に脚色して完成出版させた「戯曲キリスト」(新日本)の冒頭で、賀川が書き残した重要な証言があるので、紹介しておきたい。
 これは1947年5月21日の日付のものであるが、余り眼に留められていないものかも知れないので、戦時下と敗戦時の賀川の「魂の内側」を見る言葉として、戦後64年経たいま、心に留めておくのも意義深いものと思われる。以下はその一部である。



 キリストと「涙」と私の問答

 私「盲目の日本の指導者、私は監房に閉じ込められて、日本の落ちて行く将来が心配になる。」
私がそう言って、独言を言っていると、目頭の涙が小さい声でささやいた。

 涙「実際、日本はだめですよ。すべてに行きつまっている日本に希望なんて持てるもんですか。今に見ていてごらんなさい。日本全体が涙の洪水にしたる時がありますから。」
 涙が恐ろしい預言をするので、私は身ぶるいした。私は二昼夜、東京渋谷憲兵隊の独房に端座したまま、横にならずに黙祷をつづけていた。するとキリストが、魂の内側から姿を現わして、私の肉体を占領し、肉体の内側から、皮ばかりになっている、私と涙に呼びかけた。

 キリスト「私はあなたの霊の内側に住んでいるキリストです。あなたは救いを外側に求めてはなりません。あなたが尋ねない先に私はあなたを尋ね、あなたが愛さないうちに私はあなたを愛しています。私はあなたを誤解のうちに守り、ゴロツキの襲撃に対しても、常に保護し、悪漢のピストル、貧民窟のだらく、無知な軍閥から守って来て上げたキリストです。あなたは外側の奇跡を信じてはなりません。私は永遠のキリストです。病をいやし、罪人をなぐさめ、亡びた国を興し、叛ける放蕩息子を母の許にかえす愛の力そのものです。」

 その澄み切った声に、私は股の間に突っ込んでいた首をちぢめ、1900年前、十字架の上に死んだキリストが永遠に人間の悩みを負う強き霊力である事を発見した。御光は私のうちに住むキリストよりさし出て、抜けがらのようになった私の皮を貫いて、憲兵隊の監房を照らした。それは私に取っては生死を超越した絶対なる信仰である。神の救いの力を経験した、有難い瞬間であった。

 内側に住んでいてくれるキリストは、真昼でも真夜中でも私の行くところは何処にでも付いて行ってくれる。それで私は如何なる困難にも、如何なる強迫にも、大胆不敵なる行動を取ることに決定した。キリストが内側に住んでいるのだ。そう思う瞬間、歴史上のキリストは現実のキリストである。晴れに、くもりに、時雨に、暴風雨に私は少しも恐れる必要がない。

 1945年3月9日以後、東京は火の海と化した。その火の海の中にも私は内側に住み給うキリストを信頼して疎開することを肯じなかった。私は火の海の中に取り残された最後の悩める者の中に、十字架の愛をたてねばならぬと決心した。

 火の雨が天から降って来た。私の隣保館も皆燃えてしまった。私の軒先にも数十尺の火柱が立った。私は火の雨をさけるために逃げ廻った。然し私は太陽が出ると、また悩めるものを尋ねて徒歩で数里の道を往復した。栄養失調はつづいた。体重の四分の一を失った。然し私は内側に住み給うキリストを信頼して、少しも不安は持たなかった。

 キリストと共に十字架に死ぬのだ。そしてキリストともに墓から甦るのだ! そんなことを言いつつ、杖にすがりつつもキリストと歩む道をふむことを決心して悩める者を探して歩いた。

 1945年8月15日、日本は完全に敗退した。終戦後、私は暗殺する者があると言うので、私が栃木県の森の中に隠れた瞬間にも、又キリストは付いて来てくれた。

 キリストはいつも魂の内側から呼びかけていてくれる。キリストの眼は私の眼の内側から見、キリストの口は私の口の内側から、そしてキリストの耳は私の耳の内側から聞いていてくれる。キリストは内側に住んでいてくれる。そして私に限らず、愛の餓えている者に取っては、キリストは必ず、内側から魂の扉を開いて入っていてくれる。ただ魂の扉を開かぬものに取っては、いくら入りたくても、キリストは入って来られない。

 暴風に、疾風に、滅亡に、インフレーションに、人生の波頭がどんなに高くてもキリストは私の魂の内側から必ず守っていてくれる。そしてキリストはまた、凡ての日本人を祝せんが為に今日も涙を流して我等の為に祈っていてくれる(以下略)。(1〜3頁)



 「涙」と私とキリストと、豊彦らしい「対話」風の詩的な表現で、彼の見たこと、活かされて来た事実を、このように書き刻んだ。賀川の「小説キリスト」(551頁)とこれを原作として山路が脚色した「戯曲キリスト」(335頁)の表紙を添付する。(2009年8月21日記す。鳥飼慶陽)



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